第1話で登場した、ジーニアス奥寺の招待で、北海道のホテルにやってきたカイト、ノノハ、アナの3人。何でも、ホテル支配人の祖父が作った賢者のパズルがあるとのこと。放っておいては危険と、招待を受けたカイトでした。パズルの実力は疑問ですが、それでもパズルマニアに違いないジーニアス奥寺のプロデュースだけあって、至るところにパズルが散りばめられているホテルでした。もっとも、ホテルの創始者である支配人の祖父は、元POGのギヴァーだったというのですから、パズル的趣向がふんだんにあっても当然だといえます。本編の中では、隠れキャラのようにたくさんのパズルが登場します。どんなパズルがあったかは紹介しませんが、ぜひ探してみてください。
ホテル内の喫茶室で、カイトとアナが目の当たりにしたのが、暗号で書かれたメニューでした(図1)。これを考案したのは、ジーニアスではなく、支配人の祖父という設定です。ジーニアスは、この祖父が残したノートを借りて、そこからアイディアを利用したに過ぎません。カイトもアナも簡単に解いてしまうあたり、さすがといえますが、ただカイトはコーヒーを注文したので、暗号を解いたかどうか怪しいものです。アナの道産子パフェはちゃんと解いた結果でしょうか、それとも直感(!?)。上部の4文字が“MENU”ではないかと推測できれば、それを手掛かりに解くことができます。(図1)
これの元ネタになったのは、北海道を舞台にしたパズル作りということで、思い当ったのが、札幌農学校(現・北海道大学)の初代教頭を務めたクラーク博士。クラーク博士といえばフリーメイソンの一員として知られた人物です。フリーメイソンの暗号は、暗号に関する文献なら、必ず載っているといっていいほど、有名な存在です。公務員試験や入学試験などにも、似たような問題が出題させたことがあるくらいです。この暗号を解読したものを図(図2)にしました。これを使って、友達同士で暗号通信をしてみても面白いですよ。
カイトたちが、食事の前に挑戦させられたのが、蟹をモチーフにした箱詰めパズル(※作中のパズルに挑め参照)でした。蟹1つは、地図記号の銀行と同じ、俵形をしています。これは正方形の2辺を凸にして、2辺を凹にしたもの。タテ、ヨコで繋げると、敷き詰めることができます。数学では、タイル敷きちょうど、4つを2×2に並べると手裏剣のような形です。これを4つくっ付けた形の組み合わせは7種類。このうち、2種類は同じ構成でありながら、違う形になります。これらを4×7のケースに納めるわけです。本編では、このパズルは陶器製で、ピースの表は蟹の柄ですが、裏は白で何の絵柄もありません。コンピューターによる計算では、裏表の区別なく敷き詰める組み合わせは全部で36通りあるそうです。このパズルは、NHKのデータ放送「ファイ・ブレイン」の中の√学園パズル部で遊ぶことができます。パズルの名前は蟹パズル(テトラクラブ)と付けました。興味のある方は、ぜひ36通り制覇にトライしてみてください。
さて、翌日、カイトが一人で挑んだのが、日本庭園のパズル。スタート地点とゴール地点、3箇所のパズル処を8本の道で結んでいます。一筆書きの要領で進んで、途中3箇所のパズル処でキーワードを得て、ゴール地点では、そのキーワードを入力することで財が得られるというものでした。スタート地点に立ったカイトは、地図(図3)を見ただけで一筆書きでは進めないことに気付きます。このまま進めば、パズル処③がゴール地点になるわけです。ここでは、とにかく先に進むことにし、カイトは他のパズルを解く事を優先させました。
初めに行き着いたパズル処①にあったのは「幻惑の燈籠」(※作中のパズルに挑め参照)で、5×5の形で合計25個の燈籠が置かれています。数字の書かれた札が、燈籠の外側に縦に5枚、横に5枚吊るされています。数字には、普通の数字と丸数字の2種類がありますが、どれも1~5の間で、6以上はありません。このことからも、数字は点灯させる燈籠の数ではと推理できます。普通の数字と丸数字の区別も、同じ数の点灯であっても、連続か非連続かで推理すれば、容易に分かります。ちょうど、ボウリングのスコアを連想できれば、理解しやすいでしょう。丸数字はスプリットを意味しています。このパズルは、イラストロジックと呼ばれるパズルの簡易版です。イラストロジックで(1、1)と表すところを、ここでは②と表しているわけです。この方式だと、サイズが大きくなると丸数字だけでの表示では別解が生じてしまいますが、ギリギリこのサイズまでなら答を導けるのです。得られたキーワードは、カナの“カ”か、漢字の“力”、または逆に見れば数字の“4”にもとれます。
次のパズル処②には「ししおどし」がありました。ここでのパズルは、大小2つのししおどしの規則性を使った問題でした。
「2つのししおどしに均等に水が注がれている。2つのししおどしが同時に鳴ったところから計り始めて、15分の間に同時に鳴るのは何回かを答えよ。2つが同時になってから15秒後にまず小さいほうが、そしてその12秒後に大きいほうが鳴った」
小さい方は15秒おきに鳴り、大きい方は27(15+12)秒おきに鳴ります。すると、最小公倍数は3×3×3×5=135(秒)。15分(15×60=900秒)を135秒で割ると6.66…となり、6回という答が出ます。キーワードの“6”が得られました。
最後のパズル処③には「枯山水の迷路」(※作中のパズルに挑め参照)がありました。この迷路は、中心にある石塔に行けるのは、外側の4つの入口のどれかというものです。枯山水を利用しているので、実際に中に入ってしまうと、迷路がぐちゃぐちゃになってしまいそうです。眼だけでどれが答か見つけなくてはなりません。もっとも、カイトにとっては朝飯前のことでしょうが…。ここで得られたキーワードは“い”でした。
さて、最後のパズルを解いてから問題になるのが、一筆書きのことです。一筆書き問題として有名なのが「ケ―ニヒスベルクの橋」。これを解決したのが、数学者のオイラーでした。彼の理論によれば、
「すべての点に対して、その点から出ている線が偶数個あれば一筆書きは可能。その点から出ている線が奇数個あるものがあったとしても、それが2点だけなら一筆可能。この場合、この2点が一筆書きのスタートとゴールになる」
この日本庭園を簡略化した図(図4)にすると分かりやすくなります。
Sがスタート、Gがゴール。このうち、偶数個の線を持つのが、1、2、G。奇数個の線を持つのが3、S。Sから始まって、3で終わると一筆書きは成立します。Gで終わるようにするには、図(図5)のように、3とGを線で結ぶことで、3を偶数個、Gを奇数個にすればいい。カイトが見つけた吊り橋がこれに当たるわけです。
カイトが進んだ答の1例(図6)。Sから始めてGで終わる道筋はいくつもありますが、本編中ではこんなコースで進んだものと思われます。
吊り橋を見つけたことで、一筆書きは完成しましたが、まさか、その吊り橋に細工がしてあったとは露知らず、吊り橋から落ちたカイトを救ったのが、ノノハとアナが乗った馬と鹿でした。それを見ていたヘルベルトの手下が「馬鹿な」といったのも納得(!?)です。
集めたキーワードの“カ(か)”、“6(む)”、“い”は、アイヌのことばで“神”の意味。これを入力して開いた扉の向こうにあったのは、それこそが支配人の祖父が本当に残したかったもの「美しい自然」の姿そのものだったのです。元はPOGのギヴァーだった支配人の祖父は、引退後ホテルを始めたわけですが、この日本庭園のように、好きなパズルをいくつも取り入れるとは、人の思いを大切にするギヴァーも、POGにはいるんですねえ。今回は、とても心温まる回でした。
(文責:郷内邦義)
第8話に登場したパズルに挑戦!
アナタはこのパズルが解けるか!?
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