カイトたち一行は、ソウジに化けたダイスマンによって、イギリスからイタリアのヴェネチアへ誘い出されてしまいました。ただ、ギャモンは、ソウジが偽者と知りつつ従ったようです。おそらく、キュービック、アナと、POGが個人攻撃を仕掛けてきたことを知って、次は自分だと察していたのでしょう。ノノハ、アナを所払いして、POGとの勝負に挑みます。仕掛けたのはダイスマンですが、ビショップも同行していました。そして、今回使われたパズルが、断罪の迷宮(ラビリンス)という、未だ解放した者がいない愚者のパズル(図1)です。ビショップに使用許可を言い渡したところをみると、このパズルの管理者は差し詰めルークということになるのでしょうか。余談ですが、そもそも、ギャモンの称号であるガリレオとヴェネチアには深い関係があります。ヴェネチアの大学で教鞭を取っていた頃に地動説を唱え、またヴェネチアの女性、マリナ・ガンバと結婚をしています。地動説のきっかけの1つとして、潮の満ち引きを挙げていますが、これはヴェネチアの環境がもたらしたともいえます。
今回のパズル制作では、まずロケーションをヴェネチアにするというところから始まっています。何といっても「水の都」と呼ばれるヴェネチアですから、街中の水路を使った迷路という設定はすぐに決まりました。そこから、ヴェネチアの地図を参考にして、迷路の設計に入ったわけです。危機感やスピード感を出すため、疾走するゴンドラ(ボート)を駆使して、水路を進む。水路は狭くて、カーブのあるところでしか曲がれない。一度走り出すとボートは止まらない。バックもできない。これによって、一方通行という足枷を、プレーヤーに強いることができます。さらに、ギャモンが解くということも考慮して、2つの罠を入れることにしました。迷路は大きく2つのパートに分かれています。初めの罠は前半部分、スタート直後にあります。油断して進めばすぐに罠に陥るでしょう。試作時のシミュレーションでは、何人かの人が見事に引っ掛かってくれました。そこはギャモンですから、そう簡単には引っ掛かりません。ギャモンが進んだコース(図2)を示しておきます。ゲート①からスタートして、ゲート②は簡単に通過できるように見えます。しかし、そのままゲート②を右から左へ通過すると、次のゲート③を通過することができなくなります。いち早く、このことに気付いたギャモンは、ゲート②を左から右へ通過するために、一旦左側に回り込みます。これによって、ゲート③の通過が可能になりました。
ゲート③からゲート④へは大きな運河を進みます。そして、迷路の後半部分に来ます。しかし、ゲーム⑤は、どこをどう回っても通過することができません。この2つ目の罠は、愚者のパズル所以の答えのない迷路になっています。それをクリアするには外的要素が必要です。初期設定では、迷路の中にスイッチバック可能な所を設置しましたが、疾走しているボートを一旦止めなければならず、別のイベントを発生させるのは難しいことから止めました。そこで考えられたのが、潮の満ち引きによる水路の変化というものです。何度かヴェネチアに行ったことのある佐藤監督ならでのアイディアでした。解法のヒントは、ギャモンやカイトのことばの中にもあります。まあ、満ち潮の時刻とパズルの制限時間とがシンクロしていないと、解けずに終わることになるのですが…(※後日情報に寄りますと、満ち潮時刻に合わせてPOGも出題していたらしいです)。ただ、満ち潮になればどの十字路でも曲がれたわけではなく、このポイント(図3)だけしか曲がれません。
この罠は、カイトの天才ぶりを引き立たせるためのもので、カイトとはいえ、初めからボートに乗っていては分からなかったでしょうし、橋から動かずに見ていたことで、満ち潮による水路の変化に気付けたのかも知れません。このポイントの後、カイトが進んだコースが(図4)です。このパズルは、NHKのデータ放送で遊ぶことができます。動きのあるパズルとして面白いのでぜひ遊んでみてください。
カイトたちのパズル勝負の裏で行われた、ルーク対ソウジのチェス対局も名場面でした。
この対局の棋譜(図5)を挙げておきましょう。
先手をルークに譲る、「僕の方が年上ですから」というところ、ソウジの意地が感じられていいですねえ。最初にチェック(王手)をしたのがソウジであり、途中でも駒得をしているのはソウジだったことからも、全体的に見るとソウジ優勢の模様です。ルークのターニングポイントは、キャスリングの後のクイーンを捨てる手です。クイーンは、将棋の龍王、龍馬に当たる、とても大切な駒です。だが、勝利のためなら大駒さえも捨てる決断力はルークならではといえます。皮肉にも、ソウジを襲ったダブルチェックは、ビショップとルークというおまけ付き。この攻め方には、ソウジもきっと驚かされたことでしょう。格の違いを感じたソウジだったのでしょうか。
さて、物語は日本に戻り、カイトの過去が明らかになります。益々、目の離せない展開にご期待ください。
(文責:郷内邦義)
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